設立趣意書
一つの例を挙げるなら……「腕を挙げる時は肩が外旋していかないと大結節が肩峰に衝突するから自然に外旋が起こるようにできているんですよ」と学生時代に受けた講義が、どれだけ新鮮な感覚で入り込んできたことか今でも想い出します。肩を語る書籍、文献には何の疑いもなくそのように書かれていました。それが全くの出鱈目であると分かったのは理学療法士になってもう何年も経ってからのことでした。よくよく考えてみれば、挙上動作の主働作筋である棘上筋が収縮すれば大結節は自然に肩峰の下に引き込まれる訳で、外旋して肩峰を迂回するなどということはあり得ない話です。勿論、安静下垂位は内旋位ですから自然に挙上すると上腕二頭筋長頭腱に上腕骨がガイドされて外旋が起こります。しかし、肩峰を迂回している訳ではありません。こんな出鱈目が未だに養成校の授業で真しやかに講義されています。そしてそれを誰も疑わないのです。
患者に起こっている現象を考察する際に、思考の拠り所になるものがないために活字になったものを盲信していると思われます。基礎医学を自分の思考の拠り所として治療効果を出すためには何をするべきかを考える、という治療者として当然の行いを、果たしてどれ程の理学療法士が行えているでしょうか。解剖学実習の見学さえしたことがないという理学療法士が続々と誕生している現状の先にあるのは一体どんな現実なのでしょう。いつでも立ち返ることができる思考の拠り所をきちんと作る、という意識を一人ひとりが持たなくてはなりません。
本会を、肩に関する事実を理学療法士の立場で追及する研究会にしたい、作り話ではなく事実を共有できる研究会にしたいと願っています。
日本肩関節理学療法研究会 立花 孝