第15回日本肩関節理学療法研究会開催報告
第 15 回日本肩関節理学療法研究会はメインテーマを「肩関節バイオメカニクス」として、164名の参加者で帝京科学大学千住キャンパスにて行われました。肩関節の解剖学や運動学と研究について、肩関節の理学療法に必要なバイオメカニクスなど多くの講演を取り上げました。 |
2023年8月19日(土)1日目
肩関節周囲の触察講習
当会恒例の立花孝先生(当会顧問)、高濱照先生(当会顧問)、西川仁史先生(甲南女子大学)、鈴木加奈子先生(たちばな台病院)による『肩関節周囲の触察講習』を開催し、20名の理学療法士、作業療法士の先生にご参加いただきました。 |
特別講演1
「Cuff-Y exerciseの起源」 |
講師:山口 光國先生 |
臨床における抽象的な事象を解剖学という確かな事実をもとに長年追求し続け、腱板機能には筋(Cuff)による運動機能、肩甲骨(Y)/関節窩の動きによる関節保護機能があるとした。 腱板の出力が良好でも画像において上下関節唇の立ち上がり線で作り出される空間から骨頭が逸脱している場合は不安定性があり、関節を保護できる状態へと導くことを目的としたCuff-Y exerciseが有効である。 |
招待講演1
「肩関節の解剖学について」 |
講師:二村 昭元先生 |
腱板筋群の上腕骨停止部、関節包、腱板疎部を構成する構造など、狭義の肩関節についてと、その周囲の筋、神経として前鋸筋、腋窩神経に焦点を当てた内容であった。 特に腋窩神経は三角筋、小円筋に加え関節包や三角筋滑液包にも枝を出し、臨床上疼痛の原因となりやすいため、腋窩神経由来の疼痛に留意する必要がある。解剖学は年々新しい事実が発見されていくため、教科書であっても疑問を持ち読むことが大切である。 |
2023年8月20日(日)2日目
特別公演2
「肩関節運動学と研究についてのレクチャー」 |
講師:上田 康之先生 |
肩関節は胸骨・鎖骨・肋骨・肩甲骨と上腕骨が機能的に相対する肩複合体であり、大きな可動性が得られている。そのため、各疾患における特徴的な原因が、肩関節運動中の肩甲骨関節窩に対する上腕骨頭の運動に影響を及ぼすこととなる。 研究は臨床現場での疑問や過去に検証されていない課題が対象となることが多く、科学的根拠に基づいた理学療法の実践には欠かせない。そのため臨床と研究はともに取り組む必要がある。 |
特別講演3
「現場のニーズに立脚した細心の動作分析に関する研究」 |
講師:松田 雅弘先生 |
近年、動作解析に関する研究が数多く進められており、動画解析、画像解析や光学センサーによる動作解析など様々な方法が開発されている。 慣性センサーを用いたものやマーカーレス動作解析、スマートフォンのみで解析を可能にするアプリケーションなど、現在動作解析はより簡便に使用できるよう開発が進んでいる。 客観的な動作の評価が可能で、簡便に使用することができるツールとなってきた動作解析装置は、臨床現場でも有用となる可能性があり、より良い理学療法を提供するための一助になると期待している。 |
招待講演2
「最新の肩関節のバイオメカニクス-4DCTの活用」 |
講師:松村 昇先生 |
肩関節は、胸鎖関節、肩鎖関節、肩甲上腕関節から構成される複合関節であり、肩甲上腕関節においては非拘束性関節であることから、肩関節は人体で最も大きな可動域を有する。 4DCTはこのような複合的な関節運動と骨の動きを評価することが可能で、肩関節の研究でも用いられている。 しかしながらフレーム数の限界や被検者の被爆、解析の負担といった懸念点が挙げられる。その特徴を踏まえた上で、4DCTによる動作の評価や、3次元動作解析と組み合わせた動作の評価・研究など が展望として考えられる。 |
特別講演4
「肩関節理学療法に必要なバイオメカニクス~筋骨格シミュレーションモデルから見えてきたこと~」 |
講師:河上 淳一先生 |
肩関節理学療法には、バイオメカニクスの知識が必要である。 バイオメカニクスの中でも、運動学的データから運動力学データを推定する筋骨格シミュレーションの研究では、上腕骨頭の上方化や腱板断裂術後の修復腱にかかる張力の特徴などが明らかとなった。 しかし、筋骨格シミュレーションは定性的データであるため、結果を鵜呑みにするのではなく、方向性を判断するためのツールとして活用する必要がある。 |
教育講演
「肩関節理学療法の基礎」 |
講師:立花 孝先生 |
外転動作での疼痛には、解剖頚軸回旋やQLSでの神経絞扼改善、肩峰滑液包の滑走改善が有用である。 GHの内転制限は肩甲骨下方回旋での代償を抑制した状態での純粋な可動域の評価が必要である。 肩関節に不安定性がある人には肩甲骨の上腕骨に対する追従性(機能的関節窩)を意識することが大切である。 腱板機能の評価は腱板自体の評価だけでなく、体幹や下肢、肩甲骨の安定性も合わせて評価する必要がある。 凍結肩に多く見られる肩甲下滑液包の閉塞はSSCの滑動障害を引き起こし、挙上や内旋制限にもなり得る。 |